2.6.1 視野
視野とは、視覚刺激が処理できる視角の大きさである。視野は中心窩を基準として測定する。視野の大きさは動物種によって異なる。ヒト健常者の視野は、垂直方向に上側60度、下側75度程度である。水平方向では、単眼の場合、鼻側60度、耳側100度程度である。したがって、両眼で重複する視野が120度程度存在する。このことにより両眼視差が生じており、両眼立体視に寄与している。中心窩を基準に、左右や上下の領域を、左視野、上視野のように呼ぶ。各眼の耳側15度程度の位置に盲点が存在する。中心窩から20度程度の領域を中心視野と呼ぶ。それ以外の領域を周辺視野と呼ぶ。一般に中心視野ほど空間分解能が高い。周辺視野では色覚が失われる。視覚障害者(ロービジョン)には、視野欠損を示す者が含まれる。
-空間周波数特性と視力
視覚系のコントラスト感度を空間周波数ごとに調べたものをコントラスト感度関数(Contrast Sensitivity Function; CSF)と呼ぶ。静止刺激に対するヒトのCSFはバンドパス型であり、6 cpd(Critical Path Delay)付近で感度が最大になる。低空間周波数での感度低下は神経的原因に由来する。高空間周波数では60 cpdまで感度を持つ。高空間周波数での感度低下は主として光学的原因に由来する。一般にCSFを測定するのは煩雑であるため、光学的異常の検査目的には簡便な視力検査を行う。おおまかには視力は一定のコントラストのもとで刺激が検出できる最大の空間周波数に相当する。
CSFは単一の機構に由来するのではなく、複数のバンドパス型チャネルによって構成されることが分かっている。各々のチャネルはバンド幅が等しく中心周波数が異なる。チャネルは画像中の空間周波数成分の検出をしているとみなせることから、これらのチャネルを空間周波数チャネルとよぶ。空間周波数は視野ごとに存在すると考えられている。そのため、空間周波数チャネルによる処理は、大局的フーリエ変換のような線型変換ではなく、擬線型な過程とみなせる。
視覚系のコントラスト感度を時間周波数ごとに調べたものを時間的CSFと呼ぶ。低空間周波数では、CSFは低時間周波数で感度が低下するバンドパス型である。高空間周波数では、ローパス型である。刺激をコントラスト反転したときにフリッカーが知覚されなくなる時間周波数を臨界融合周波数(Critical Flicker Frequency; CFF)と呼ぶ。CFFは一定のコントラストのもとで刺激が検出できる最大の時間周波数に相当する。ヒトのCFFは50 Hz程度とされる。
ウェーバー=フェヒナーの法則
マッハバンド
ヘルマン格子 (ハーマン格子)
-形
鋭角の過大視
-奥行きの知覚
網膜は面であるため、網膜に投影される像は二次元である。しかし、人間は三次元空間を知覚している。これは人間が様々な奥行き手がかりをもとに、二次元情報から三次元情報への推定を行っているためである。奥行きの手がかりとして、以下のものが挙げられる。
単眼性のもの
絶対距離
水晶体のピント調整(毛様体筋の収縮)
相対距離
網膜像の大きさ(大きいものほど近い)
相対位置(上にあるものは遠く、下にあるものは近い)
重なり(遮蔽されているものが奥にある)
線遠近法
大気遠近法(遠いものほどぼやけ、青味が増す)
色(進出色と後退色)
運動視差
両眼性のもの(単眼性と重複するものは省略)
絶対距離
輻輳(外直筋、内直筋の収縮)
相対距離
両眼視差
2.6.2 見えモデルの三要素
人間が見ている色は、環境によって大きく変化する。下図は、横方向に小さな正方形のコマが「白・灰色・黒」の順に並んでいる。このコマは、「白・灰色・黒背景」何れの背景も同じ色として印刷されている。しかし、背景の明るさによりその見え方は変化する。左の白いコマは、背景が暗くなるに従い明るく感じられる。逆に右端の黒いコマは、背景が明るくなるに従い暗く感じられる。そして中央の灰色のコマは、灰色の背景の時は白いコマと黒いコマの中間の明るさと
して感じられるが、背景が白いと黒寄りに暗く感じられ、背景が暗いと白寄りに明るく感じられる。明暗対比の現象が、このような色の見えの違いを生みだす。背景の明るさに応じて、明暗の知覚が変化した結果として観察される。
これは、色再現技術における従来と次世代の色再現の考え方の違いを簡単に示している。それぞれの測色値を一致させるか、環境全体での色の見え方を一致させるかの違いである。従来型では、測色値(例えばCIELAB)を一致させるのみであった。次世代型では、環境全体の関係性のもとで観察される「知覚される色の見え」の一致が目標となる。「色の見えモデル」は、観察環境パラメーターと実際の三刺激値によって色の見えを予測できる。色再現を実施する環境での対応する三刺激値に戻すこともできる。色の見え中心の考えたによって、いつでも色の見えは一定となる。色の見えモデルは、知覚される色の見えの各属性を定量化する。知覚される色の見えの属性は明度(J)・クロマ(C)・色相(h)などであり、環境の測色値や環境の輝度などに対応づけられる。色の見えの属性として、明るさ(Q)・カラフルネス(M)・飽和度(s)もあげられまれる。(ここに示した( )内の英字記号はCIECAMで使用されるものである)これまでのような定められた環境に限定されることなく、見る環境に合わせて色の見えを再現する考え方になる。
それでは、実際に色の見えが変化する現象の例を考えてみる。例えば、テレビ画面を真っ暗な部屋で見る場合と明るい部屋で見る場合のコントラスト感の違いがあげられる。暗い部屋では強く、明るいと弱いコントラスト感に感じられる(バートルソン-ブレナマン効果)。
また、赤い箱を薄暗い部屋から外の太陽光の下に出して観察すると、赤い色の鮮やかさ感が増加して感じられる(ハント効果)。
他にも色々な色の見えの現象があり、このような変化を予測するのが色の見えモデルである。色の見えについて国際照明委員会(CIE)では、様々なモデルの比較検討が行われてきた。CIEの第1部会「視覚と色」において、1997年の京都会議で「色の見えモデルCIECAM97s」が合意され1998年に技術報告書としてCIE Publication No.131として出版された。更に、第8部会「画像技術」に引き継がれて、2002年に改良されたモデルであるCIECAM02(シーキャムオーツー)が合意された。そして2004年に、技術報告書として「CIE Publication No. 159, カラーマネ-ジメントシステムにおける色の見えモデル CIECAM02」が出版されたのである。その題名の通り適用対象は、カラーマネージメントシステムとなる。
2006年初め、ついにCIECAM02が利用可能なマルチメディア環境が登場した。Windows Vista OSに搭載されたカラーマネージメントシステムであるWCS(Windows Color System)である。これは、2005年に発表されたCanonのカラーマネージメントシステムであるKyanos(キュアノス)がベースとなっている。
CIECAM02の利用には、色を見る環境情報が不可欠となる。この情報をもとに色の見えが計算されるからである。WCSでは、CAMP(Color Appearance Model Profile)内に以下のような環境情報が記述されている。
- 白色点
- 環境の背景
- 周囲環境のタイプ(一般的・薄暗い・暗黒)
- 順応輝度
- 順応の程度
WCSは、まだ登場したばかりであり、利用できる機器も限られている。しかし、カラーマネージメントシステム内での扱いが可能となったことにより、色の見えモデルCIECAM02の利用は大きく進められることが確実視されている。

上図に示すように、色を識別するためには、光源と物体と眼の感度の3つが必要で、このうちの1つでも欠けると色を認識することができない。これを見えモデルの三要素というが、リンゴやレモンや髪の色などといった色の認識は、物体からの反射光から色情報を得て、それを脳で弁別することによって、初めて色として認識できるようになる。