2.6 視覚

視覚とは、可視光を物理的入力とした感覚のことであり、いわゆる五感のひとつである。視覚によって、外界にある物体の、形、運動、テクスチャ、奥行きなどについての情報、物体のカテゴリーについての情報、物体の位置関係のような外界の空間的な情報などが得られる。したがって、視覚は光情報をもとに外界の構造を推定する過程とみなせる。脊椎動物神経系では、可視光は網膜において符号化され、外側膝状体(LGN)を経て大脳皮質において処理される。コンピュータビジョンでは、光センサーからの光情報の入力をもとにした処理が行われる。ここではヒトを中心に、動物の視覚のみを扱う。脊椎動物(人を含む)、節足動物(昆虫、甲殻類)、軟体動物(タコ、イカ)など、多くの動物が視覚を持つ。

Fig1_2_6_1
・視覚刺激

物体が網膜において結ぶ像の大きさを、視角によって表現する。視角とは物体の両端から結点に引いた線のなす角度のことである。中心窩からの視角を偏心度と呼ぶ。視覚系に入力した画像の各点の性質は、輝度と色によって記述される。輝度と色は、画像の一点のみで決定できる視覚属性であるため、一次属性と呼ぶ。テクスチャ、運動、両眼視差のように、空間的・時間的に異なる画像の複数の点において定義される視覚属性を、二次属性あるいは高次属性と呼ぶ。網膜像が空間的周期を持つとき、周期の細かさを空間周波数によって記述する。空間周波数の単位は、c/dcycle per degree;視角1度あたりの周期)をとることが多い。時間的周期については、Hzが用いられる。視覚刺激を記述する際には、輝度コントラストの定義として Fig1_2_6_1a用いることが多い。LmaxLminは、画像中の輝度値の最大値と最小値を表す。この定義をMichelsonコントラストと呼ぶ。

・視感度と錐体分光感度

視覚系の感度は、光の波長によって異なる。ヒト視覚系の視感度は、明所視では555 nmでピーク値をとる。このときの感度を基準として、他の波長の光に対する感度を求めると、可視光全体に対する比視感度が求まる。暗所視では507 nmの光に対して最も感度がよい。暗所では感度曲線が短波長側にシフトしている。この事実をプルキンエシフト(別名:プルキニエまたはブルーシフト)と呼ぶ。放射輝度と視感度をかけ合わせた値を輝度と呼ぶ。

Fig1_2_6_1b
 明所視では色が知覚される。色覚異常者の視感度曲線や等色関数から、分光感度の異なる3種類の光受容器(錐体)が存在することが示唆される三色説。健常者の等色関数および2色型色覚異常者の混同色中心から、錐体分光感度を求めることができる。暗所視における光受容器(桿体1種類であるため色覚は存在しない。桿体分光感度は暗所視視感度に等しい。

Fig1_2_6_2
 上図に示したように、色々な光源を用いて物体(リンゴ)を見ると、光は物体の表面で乱反射してその色の情報のみを反射光として人間の目に送る。色情報は反射光と透過光(吸収光)に分散されるが、乱反射も含めて色情報という元の光源のエネルギーは法則に従って反射の前後で変化しない(一定である=エネルギー保存の法則)。