HSVモデル(HSV model)は色相(Hue)、彩度(Saturation・Chroma)、明度(Value・Lightness・Brightness)の3つの成分からなる色空間である。一般的にはHSV色空間というが、HSL色空間(Hue、Saturation、Lightness)あるいはHSB色空間(Hue、Saturation、Brightness)とも言われる。 (下図左側)

色相 - 色の種類(例えば赤、青、黄色)。0 - 360の範囲(アプリケーションによっては0 - 100 % に正規化されることもある)。
彩度 - 色の鮮やかさ。0 - 100 % の範囲。刺激純度と colorimetric purity の色彩的な量と比較して「純度」などともいう。色の彩度の低下につれて、灰色さが顕著になり、くすんだ色が現れる。また彩度の逆として「desaturation」を定義すると有益である。
明度 - 色の明るさ。0 - 100 % の範囲。
HSVは1978年にアルヴィ・レイ・スミス(Alvy Ray Smith)によって考案された。これはRGB色空間の非線形変換であり、色の変換に用いられることもある。HSVとHSBは同一であるがHLSとは異なる。
HSVモデルは通例コンピュータグラフィックスアプリケーションに用いられる。いろいろなアプリケーションでユーザは個々のグラフィックス要素に適用する色を選択する必要がある。このような場合、HSV色環がよく用いられる。これは円状の領域に色相が表現されたもので、それとは別に三角形の領域が彩度と明度の表現に用いられることがある。上図における三角形の水平軸は明度を指示し、また垂直軸は彩度に対応する。このような形式のインターフェースでは、最初の操作で環状の領域から色相を選択し、続いて三角形の領域から所望の彩度と明度を選択する。
・HSV色空間の円柱
上図右側に示すように、HSVモデルの別の視覚化方法は円錐である。この表現では、色相は色環の三次元円錐状の構造に描かれる。彩度はその円錐の中心からの距離、明度は円錐の頂点からの距離で表される。円錐ではなく六角形の錐体(六角錐)で表現するものもある。この方法は単一の物体でHSV色空間全体を視覚化するのに適している。三次元形状のため二次元のコンピュータインターフェイスにおける色の選択に利用するのは難しい。
HSV色空間は円柱状の物体として視覚化されることもある。上記と同様に色相は円柱の外周に沿って変化し、彩度は中心からの距離に伴って変化する。明度も頂点から底へ向かって変化する。このような表現はHSV色空間のモデルとして数学的に厳密であると考えられるかもしれないが、視覚化された彩度レベルと色相の精度は黒に近づくにつれて減少する。さらに、通常コンピュータは有限の範囲でRGB値を格納する。精度の制限は人間の色認知能力の限界とも関連し、ほとんどのケースで円錐による視覚化はより現実的とされている。
・HSVと色覚
HSVモデルと人間が色を知覚する方法が類似しているため、グラフィックデザイナーはRGBやCMYKのようなモデルよりHSVカラーモデルを用いることを好むことがある。RGBとCMYKはそれぞれ加法混合と減法混合によるモデルであり、どちらも原色の組み合わせによって色が定義される。それに対しHSVはより人間と親和性のある内容、この色は何色か・鮮やかさはどのくらいか・明るくしたり暗くするにはどうしたらいいか、で色についての情報をカプセル化する。HLS色空間も同様に直感的に理解しやすい。
HSV三刺激値空間は、放射測定された物理的なパワースペクトルへ一対一に対応させることはできない。従って、HSV座標と波長や振幅といった物理的な光の性質の間を対応させる方法は存在しない。もし物理的直感が必要であれば、以下のような「色彩測定」の心理物理的技術を用いて、HSV座標系を擬似的に変換することは可能である。
色相は色の主波長を定義し、色相はスペクトルに沿った波長位置を意味する。ただしインディゴから赤の間(およそ240 - 360度)は純紫線(ピュアパープルの線)上を示す。
もし色相知覚が再現されれば、実際単色では主波長に位置する純粋なスペクトル色を利用し、「脱飽和」は適用された主波長の頻度分布あるいは単色光に同じ力の量の光(例・白)を加算することとだいたい同じことになるだろう。
明度はスペクトラムのパワーの総量または光の波形の最大振幅にほぼ類似する。しかしながら、実際のところ明度が最大のスペクトル成分(統計学「モード」、この分布に直交し累積した力ではない)に近いことは以下の方程式から分かる。
・RGBからHSVへの変換
R、GおよびBが0.0を最小量、1.0を最大値とする0.0から1.0の範囲にあり、(R,G,B)で定義された色が与えられたとすると、それに相当する(H,S,V)カラーは次のような数式により決定することができる。
R,G,Bの3つの値の内、最大のものをMAX、最小のものをMINとすると、この式は次のように書ける。(HSVからRGBへの変換式もあるが、ここでは省略する)
結果は(H,S,V)形式である。Hは0.0から360.0まで変化し、色相が示された色環に沿った角度で表現される。SおよびVは0.0から1.0までの範囲で変化する彩度および明度である。角座標系で、Hの範囲は0から360までであるが、その範囲を超えるHは360.0で割った剰余(またはモジュラ演算)でこの範囲に対応させることができる。例えば-30は330と等しく、480は120と等しくなる。
この式はHSVの他の性質も示す。
MAX = MIN(例・S = 0)のとき、 Hは定義されない。上記のHSV空間の図を参照するとよい。もしS = 0ならこの色は中央のグレイの直線の周囲にあり、従ってこの色には彩度がなく、角座標には意味がない。
円柱モデルでMAX = 0(例・V = 0)のとき、Sは未定義である。これは上記の円錐状の図に最もよく表れている。もしV = 0ならこの色は完全な黒であり、この色に色相も彩度もない。従って円錐状の図は単一の点に潰れ、この点では角度も角座標系も無意味である。
・L*a*b*色空間での適用例
L*a*b*色空間は、人間の色覚を司る視覚要素を取り込んだ三次元でかつ、均等な色空間を創り出している。そのため色を扱う業界ではデファクトスタンダードになっている。
色覚は、「見えの三要素」である「光源」「物体」「視覚」の3つの要素をベースに、光の波長の相違によって起る視覚の質的差異をいうが、視覚する色は赤R、緑G、青Bの三原色に黄色Yを加えた4色(これを視覚四原色という)で色を弁別(識別)している。
また、L*a*b*色空間は球形内にすべての色が収められ、球の中心部を黒(0)として色展開がなされている。また、表現される色(指定した色)は明度、彩度、色相の三属性で構成された座標の一点で表される。構成される座標軸は、上下方向に白-黒線、横方向に緑-赤線、およびそれに直交した黄-青線がある。上述した通り、この赤、緑、青、黄の4色は視覚四原色の1つの色であるが、対向する色は黄-青は補色関係にあるのに対して、緑-赤は補色ではないことに注意が必要である。

・色差の概念
色彩科学において、色差あるいは 色の距離は、2つの色の間に定義される指標の一つである。 従来は官能評価することしかできなかった「色の差」の概念が、定量的に検討できるようになった。重要な色の判定等において、これら特性の定量化は極めて重要である。通常はデバイス非依存の色空間におけるユークリッド距離で定義される。
色差の求め方は、2点間の距離で計算できる。つまり、各色の座標からピタゴラスの定理(三平方の定理)を使って求めることが出来る(計算例は省略)。
・マクアダムの楕円
CIEが定めた色を同定する方法に「マクアダムの楕円」がある(下図参照)。これは色度図上で表現される色が同じかほぼ同程度に見える範囲を示したものである。
よくある誤解で「色差は色そのもの表す」と考えている人を散見するがこれは明らかに間違いである。色差はあくまでも色が同じか似通っているかあるいはまったく違うかを表す指標なので色を同定することとは関係ない。また、CIEが定めたマクアダムの楕円は当初XYZ(xyY)色度図上(下図左側)で表現されいたが、この方法だと色差の範囲(楕円の大きさ)が一定せず不便であったが、その後UCS均等色度図(下図右側)に改良されどの位置でもほぼ同じ大きさの楕円で扱えるようになった。UCS色度図で注意すべき点は、xy軸ではなくuv軸になっていることである。
マクアダムの研究成果で最も有名なものは、色の制御技術分野である。マクアダムは、色差の知覚の基礎となるのは、ある色の知覚と見た目の色をマッチさせる際の統計的な誤差であるという仮定を確かめるため、一人の被験者による広範囲の実験を行った。その結果は1942年、CIE色度図上に統計的に派生させた楕円を形成させて表現されて発表された。しかし結果として、フリエレ-マクアダム-チッカーリング色差式が、その他の基礎研究により導き出された方式に比べると、知覚される色差の特定においてあまり効果的ではないことがわかった。マクアダムがこの楕円を同じ大きさの円に変換しようとする過程で、心理物理学的な色空間が非ユークリッド性を持つことがわかった。

・色差値の評価
色差値(dE)はNBS単位(米国標準局)で以下の通り定めている。
dE* 色差の感覚
0 ~0.5 Trace かすかに感じられる
0.5~1.5 Slight わずかに感じられる
1.5~3.0 Noticeable かなり感じられる
3.0~6.0 Appreceable 目だって感じられる
6.0~12 Much 大きい
12以上 Very Much 非常に大きい