絵の具やインクなどは、顕色系(着色した色票を三属性に基づいて色記号や番号などで定量的に表す方法)であるが、通常の概念とは異なりこれらの色混合は減法混色という原理・原則に従わない。以下、それらの理論的背景について述べる。
<混色の基本的な考え方>
色は「光」と「物体」と「目」(見えの三要素)があれば見ることが出来る。また、光は波長ごとの特有の色を持っており、人間が見ている7色の虹などは分光された光が含まれる色情報そのものである。更に、カラーテレビで見ている色も光の色といえる。現在見ている光の色は、それぞれの色光を混ぜて各々の三刺激値が加算された刺激になって作用する。(図1参照)

a.混合の概念
一般的には、加法混色は加算、減法混色は減算として説明されているが、もう1つの表現方法がある。それは図2に示す通り、論理学(ブール代数)の応用であるが、加法混色は「和集合(論理和)」で考えること、および、減法混色は「積集合(論理積)」で考えることである。
つまり、色光の三原色であるRGBと色材の三原色であるCMYの関係は、図2に示すようになる。 加法混色では、R+G=Y、G+B=C、B+R=Mが導き出される。(和集合)

一方、減法混色では、Y*C=G、Y*M=R、C*M=Bが導き出される。(積集合)
これは、ブール代数の論理積に相当する。この考え方は、フィルタを重ね合せる原理に基づいている。(厳密に言うと、絵の具やインクの色混合はこの原則が適用できない)
色の混合は、このようにいろいろな表現方法があるので、最も理解しやすい方法で覚えるのがよい。このことを踏まえ導き出せる「混色の法則」について以下に説明する。
b.減色混合に関する裏付け
上述の通り、加法混色は和集合の理論を適用すれば、直感的に理解できるが、減法混色の場合、単純に積集合の理論通り適用することが難しい。以下に混色の法則を述べるが、特に、減色混合については、詳しく説明する。
・混色の法則
大雑把に、白色[W]を全可視領域(400~700nm)として、青色[B]を400~5000nm、緑色[G]を500~600nm、赤色[R]を600~700nmに3等分して割り当てれば(色素の吸収波長域をCMYにブロック化も可能)、RGBの3色で可視領域を全てカバーできるため
[R]+[G]+[B]=[W]
が成り立つ。また、RGBの三原色を2色ずつ混合すれば
[R]+[G]=[Y]
[G]+[B]=[C]
[B]+[R]=[M]
となり、減法混色の三原色が得られる。
これが、いわゆる加法混色といわれているものの基本的な考えであり、2つの色を混ぜ合せその2色の和を求めることで得られる混色であるといえる。
更に、減法混色においては、ランベルト・ベールの法則を考慮しても、混色によって得られる色の三刺激値を求める場合、公式にあてはめて算出することが難しい。しかし、CMY色素の減法混色がピーク濃度の変化に対応する実験結果から色の予測が可能となる。
この原理は加法混色と同じように、2色を混合して得られる色の分光透過率は、2つの成分に対して分光透過率の積となるので、[R]フィルタと[R]フィルタを重ね合せれば[R]のみが透過し、[R]フィルタと[G]フィルタを重ね合せると透過する光は存在せず、全て吸収される。従って、減色混合における重ね合せを記号(*)で記述すると、2色の積として表すことが出来る。
つまり、
[R]*[R]=[R]
[G]*[G]=[G]
[B]*[B]=[B]
[R]*[G]=[G]*[B]=[B]*[R]=[Bk]
となる。
ここで、Bkは黒を指し、透過する光がない(無反射)ことを意味する。
次に、減法混色の三原色(CMY)を組み合せる混合を考えると、
[C]*[M]=([G]+[B])*([B]+[R])
=[G]*[B]+[G]*[R]+[B]*[B]+[B]*[R]
=[B]
[M]*[Y]=([B]+[R])*([R]+[G])
=[B]*[R]+[G]*[B]+[R]*[R]+[R]*[G]
=[R]
[Y]*[C]=([R]+[G])*([G]+[B])
=[R]*[G]+[B]*[R]+[G]*[G]+[G]*[B]
=[G]
[C]*[M]*[Y]=([G]+[B])*([B]+[R])*([R]+[G])
=[B]*([R]+[G])
=[B]*[R]+[G]*[B]
=[Bk]
となる。
これらの式で、最終式以外は、[Bk]は無反射で色味を変化させるものではないため、省略してある。
以上のことをまとめると、混色は論理的にはRGBの3色を基準におけば良いことが判る。(図3参照)
このことをスペクトルで考えてみると、可視光領域の波長が380nmから780nmの範囲で表現できる色は、色度図の(馬蹄形の)外周線上に分布することになるが、RGBの加える量を変えてやれば、人間が見ることのできる色を全て創り出すことができる。例えば、スペクトルにないピンクや青色などでも、色度図内に表現される。同様にして考えれば、
全ての色を色度図の中に表すことができる。 図3 フィルタによる色混合
・CMY三原色の確立
最初に色の三原色をベースにカラー再現を試みたのは、マクスウエル(James Clerk Maxwell 1831-1879)で、1861年に王立研究所の講義でそれを発表している。
彼は、ニュートン、ゲーテ、ヤングたちが形成した色
彩理論を検証する実験を行い、1860年に実験成功している。
そもそも彼らの研究では、RGBを掛け合わせると白くなるという、加法混色法がベースとなったのは事実である。逆にいえば、色材は足しても白くならず、黒になってしまう。
減法混色についての基本的な考え方は、上述したように、加法混色とはまったく違い色を加えてゆくに従って次第に黒に近づいていくことである。つまり、どんなに彩度が高い色材でも、異なる色を加えてゆくと次第に無彩色に近づき、ついには黒になってしまう。また、実際に使用されている印刷用のインクは、純粋な色ではないので、本来、理論的な減法混色の原理は適用できないことである。色が変化するということは、図4に示すように、究極的にはRGBそのものが変化することが絶対条件で、インクなどの色材の場合、RGBを変化させるためには、CMYを変化させなければならないことである。このことは、たとえRGBインクでも、掛け合わせた途端、理論とは逆方向になることを意味する。(図5参照、赤RとシアンCの関係のみ記述)

つまり、この理論を踏襲して更に展開すれば、図6に示すように、Rを変化させるとシアンCが変化し、Gを変化させるとマゼンタMが変化し、Bを変化させるとイエローYが変化する、というように補色関係を維持した変化が得られることになる。
要するに、インクを想定したRGBは、光をコントロールして得られる色再現法であり、RGBインクは単純に三原色の色味に近いものを色材から選んだことに過ぎない。
また、推測であるが、当時の色材では彩度の高いRGBインクは得られなかったであろうことが容易に推測できる。そして、得られた色の近いものの中から、掛け合わせによる色再現を試みたはずで、その際に、掛け合わせたら濁っていくことで相当悩んだと思われる。
その答えは簡単で、人は物体に与えた光の分光反射を色として認識するためである。
この時、RGBインクでは、単に[C]+[M]で[R]が得られているに過ぎず、結果的にRGB加法混色が成り立っていないことが判る。
つまり、分光反射を用いて色再現をする都合上、絶対的に減法混色に依存する必然性があるわけである。換言するなら、「分光反射の結果から、網膜に与えた刺激RGBを加法混色法により混合して色再現を行っている」といえる。そして、黎明期の研究者たちが1800年代後半から1900年代初期に、色の理論は基礎物理学の開祖たちにより光の研究の延長線として研究されており、理論的追求には困らなかった根拠を持ちえていたのである。
今日ではRGBの彩度の高い色材が普通に存在し、理論的なものも確立しているため、なぜ色再現法をRGBに統一しないのか?と思われるのも当たり前かもしれないが、どれほど技術が進んでも、物理原則からは逃れられないというところに大きな意味があり、大変重要なことである。