2.6.3 色覚のメカニズム
脳の最大の特徴は、それを構成する神経細胞が単独で機能することでは複雑で高次の脳機能を実現できないことである。個々の神経細胞は軸索を伸ばし、他の多くの神経細胞とシナプスを介して結合することにより神経回路を形成している。そして、多くの神経回路が集積してシステムとして機能する脳が構成されている。
従って、構成要素を対象とした分子・細胞レベルの研究に立脚して神経回路の機能を解明することは、脳機能の理解のために欠かすことができない大切なものである。
神経回路は、動物のからだが出来上がるにつれてハードウェアとしてのアウトラインが「形成」される。この段階では、脳の領域の分化と神経細胞の発生、各領域での神経細胞の移動やその結果おこる層形成と神経核形成、軸索の成長と標的の認識、シナプス形成とその安定化などの一連の現象が起こる。
続いて、動物が成長・発達するにつれて、神経回路は機能的に「成熟」する。
この段階では、経験や環境に依存して、必要なシナプスの強化と不必要なシナプスの除去が起こるとともに、学習によってシナプスにおける情報の伝わりやすさが柔軟に変化して、動物の生存に適した機能的な神経回路が作られる。最後に、動物が成体となるまでに、神経回路はそれぞれの脳の領域において特有な機能を「発現」するようになり、感覚、認知・判断、運動という複雑で高次の脳機能を実現する要素として機能するようになる。
特定領域研究では、これらの過程に対応する3つの研究項目を設定し、生理学、生化学、分子生物学、細胞生物学、解剖学、発生工学など、様々な研究手法を結集した多面的な研究を推進することにより、神経回路の機能解明を目指している。これにより、神経回路の「形成」、「機能的成熟」、「特異的機能発現」の基盤をなす分子細胞機構の理解を格段に進展させるとともに、神経回路の働きがいかにして複雑で精巧なシステムとしての脳機能を実現するかを明らかできるであろう。

色覚過程は一般に上図の上側のようになっているが、もう1つの方法を下側に示す。
光を強度としてみなすと、波長成分のうち色成分はLMSの3つに分けられ、明るさ成分はVとしてLMSとは別に分離される。これを色覚メカニズムの段階説に従ってrgbyとW-K(白黒)に分けられ大脳視覚野で色知覚が行われ明度、彩度、色相に弁別され認識される。
2.6.4 色の弁別 見えモデルの三要素は、「光源」(光)「物体」(反射、透過)「眼」(視覚)であることは、上述した通りである。
これは左図のように、りんご(物体)の太陽光(光源)が照射され、その反射光は眼に入り、RGBのセンサ(眼の網膜に配置)に反応することによって初めて色を感知することができる。
物体が透明なら、透過光となるが、いずれの場合も同じメカニズムで色を感知することができる。
そもそも、視覚とは、「眼(目)とそれにつながる神経系の働きによって得られる、主に外界の色、形やその変化についての映像情報と、それをもとにして構築される外界の空間的な認識や、この情報を得るための機能、能力のことである。」という意味を持っている。眼は感覚器と呼ばれる器官(つまり受容器のこと)の1つであり、脊椎動物(ヒトを含む)、節足動物(昆虫、甲殻類)、軟体動物(タコ、イカ)などが持っている感覚であるといえる。
・ヤング-ヘルムホルム説(三色説)
ニュートンは、白色光はたくさんのスペクトルによって構成されていることを発見したことから、人間の目の中にも、このスペクトルを処理する多くの光受容器があると考えていた。
しかし、ニュートンの考え方に反対して、ヤング&ヘルムホルツは、多くのスペクトルから構成された光を処理するのは、人間の目にある無数の光受容器ではなく、たった3種類の受容器だけであると考えた。「赤、緑、青の三原色に反応する光受容器(錐体)があり、これらの光受容器がどれくらい応答するかによって、感じる色が違う。」と考えたのである。
例えば、黄色の物体を見た場合、赤細胞と緑細胞は強く応答しているが、青細胞は殆ど応答しない。それらの情報が脳に送られ、ヒトは「黄色である」と感じるのである。
この説を始めに考えたのがヤングで、そのあと50年を経て、ヘルムホルツが発展させた。そのためこの説は、2人の名前を取って、ヤング-ヘルムホルム説と呼ばれている。
また3種類の細胞があることから、三色説ともいわれている。
・ヘリング説(反対色説)
ドイツの生理学者ヘリングは、1874年に反対色説を発表した。色の基本感覚として、「白-黒」「赤-緑」「黄-青」の3組の反対色を仮定した。この考えは次のような観察結果によって生まれたものである。
「黄色は三色説によると、赤い光と緑の光の混色によって生じるが、出来上がった黄色は、赤みも緑みも帯びていない。黄色の感覚内容は、赤とも緑とも全く違ったものである。 また、ある色を見るとき、同時に赤みと緑みを感じることはなく、黄色みと青みも同時に感じない。」
ここでのポイントは、黄色も原色の仲間に入っているということである。そして「赤と緑」、「青と黄」は、おのおの対立していることである。
ヘリングは、網膜に「赤-緑物質」、「黄-青物質」、「白-黒物質」の3種類の物質があり、その物質は光の波長によって、同化と異化という対立的な化学反応を起こすと考えた。同化は黒,緑,青の感覚をもたらし、異化は白、赤、黄の感覚が生まれるのである。
同化:合成反応。物質は生成される。
異化:分解反応。物質は分解される。
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「赤-緑物質」 |
「黄-青物質」 |
「白-黒物質」 |
同化 |
緑 |
青 |
黒 |
異化 |
赤 |
黄 |
白 |
白色光が網膜に当たると、「白-黒物質」は異化が起る。「白-黒物質」の異化が、白の感覚を生じさせる。また、黒は「白-黒物質」の同化によって生じる感覚である。「白-黒物質」は明るさのレベルに対応し、完全同化で白、
完全異化で黒、中間(同化と異化が同時に起っている状態)がグレーになる。
次に、520nmの光が網膜に当たったとする。このとき「赤-緑物質」は同化が起り、緑が生まれる。それと同時に「黄-青物質」は異化が起り、黄色が生じる。緑と黄色の情報によって、ヒトはこの光の色を「黄緑」と感じるのである。