2.4.4 順応と色順応

視覚系に限らず、人間の感覚系は新しい環境に適応するためにその感度を変化させる機能がある。これを順応と呼んでいる。視覚の場合、例えば、上映中の映画館に入った瞬間は館内が真っ暗で何も見えないのに、しばらく経って目が慣れてから辺りを見回すとよく見える、という現象がある。この場合、視覚系が暗順応することによって光に対する感度が高くなり、より少ない光でも感知できるようになるため、暗がりでも物体が見えるようになる。

同様の感度変化が色に対しても生じる。これを色順応と呼んでいる。例えば、白熱電球の照明光の部屋を、フラッシュを使わずに昼光用フィルムで撮影すると、全体がオレンジがかって写ってしまう(下図左側)。 しかし、実際にその部屋にいる時には、部屋全体がこのような色をしているようには感じず、あたかも昼光色の照明光で照明したときのような色を感じるはずである(下図右側)。これは視覚メカニズムが照明光の色に対して順応するためである。

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・色順応メカニズム

このように視覚系の感度が変化すると、なぜ昼光色で照明された時の色に近づくのかとメカニズムは、von Kries (1905) によって、次のような簡単なモデルで提案された。

ここで、人間の網膜の3種類の光受容器(錐体)のそれぞれが、照明光に対して生ずる応答に逆比例するゲイン制御をしていると仮定すると、3種類の錐体の出力のバランスはほぼ一定に近い状態に保たれる。

その後、このような単純なゲイン制御だけではなく、視覚系の非線形性を考慮した様々なモデルが考案され、提案されている(MacAdam; Y.Nayatani et.al.; R.W.G.Hunt et.al.)

このように、照明光への色順応は、照明光の変化をキャンセルするように作用することが知られている。

・不完全色順応

最近、視覚系の順応は照明光の変化を 100 % キャンセルできるメカニズムではないことが指摘されている(M.D.Fairchild; I.Kuriki ら)。これを不完全順応と呼んでいる。

視覚系の感度変化(=順応)が不完全であるということは、照明光に目が十分に順応しても、必ずしも全ての物が昼白色の照明光で照らされた時と同じ色には見えない、ということである。つまり、色順応だけではわずかながら色の見えに違いが残る、ということを意味している。従って、順応だけでは色恒常性が説明できない、というのが現在の認識である。

・恒常性

 恒常性ホメオスタシスホメオステイシスともいう)は、生物のもつ重要な性質のひとつで、生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず、生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態のことをいう。生物が生物である要件のひとつであるほか、健康を定義する重要な要素でもある。生体恒常性ともいわれる。また、色の恒常性は、知覚した色が普遍のもの(元に戻す作用)として見える。しかし、不完全な性質である。

・順応性

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                色順応のメカニズム

色順応とは、晴天の屋外や、昼光色の蛍光ランプで照明された部屋から白熱電球で照明された部屋に入ると、はじめは空間全体がオレンジ色味がかって見えるが、次第に色を感じなくなるといった現象をいう。例えば、車でトンネルに入ると白いものは一瞬オレンジ色にに見えるが少し経つと白く感じる(見える)ようになる。また、色のついたサングラスをかけると、はじめは視界がグラスの色を通した色に見えるが、次第に意識されなくなる。この現象は、光源の分光分布に応じて、目の網膜にある視細胞のうち錐体(錐状体)の感度が変化することにより起こるとされている。

錐体には長波長に反応する赤錐体(L錐体)、中波長に反応する緑錐体(M錐体)、青錐体(S錐体)の三種がある。太陽光や昼光色の蛍光ランプといった白色の光の下では、分光分布が短波長から長波長までほぼ均一であるため、三種の錐体の感度はほぼ同じである。

つまり、錐体の感度が揃っているときには、光の色を感じなくなる。その点、白熱電球の光の分光分布は、長波長のエネルギーが高い右上がりの曲線となっているので、白熱電球で照明された部屋に入ると、赤錐状体の感度が高まり、空間全体が赤っぽく見える。

しかし、この状態は長くは続かず、ヒトの眼には、光源の分光分布に応じて錐体の感度を調節し、色の見えを一定に保とうとする働きがあるので、白熱電球の部屋にそのまま居続けると、まず赤錐体の感度が下がり、続いて緑錐体の感度が下がって、三種の錐体の感度が再び揃うようになる。色順応も色恒常同様、不完全な性質である。

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 上図に示すように、色順応によって色を補正するメカニズムは、例えば、赤いリンゴを太陽光で見た場合と白熱電球で見た場合では、光源の分光分布の違いによって目の感度応答が違ってくる。(感度応答のRGBの分布が違っているので当然のことである)

太陽光でみると自然のように見えるが、電灯をつけて見ると初めのうちは黄色っぽく見えるが、しばらくすると黄色みを感じなくなって赤く見えるようになる。このように目が光の色になれて白く見えるようになることを色順応という。ろうそくの炎や電灯のような赤みを帯びた光は暖かく感じ,蛍光灯や青空のように青みを帯びた光は冷たく感じられる。