1.2.4 二重スリット実験

二重スリット実験は、量子の波動性と粒子性の問題を典型的に示す実験である。リチャード・P・ファインマンはこれを「量子力学の精髄」と呼んだ。ヤングの実験で使われた光の代わりに一個の電子を使ったものである。

この実験は、古典的な思考実験であったが、実際の実験は1961年にテュービンゲン大学のクラウス・イェンソンによって複数の電子を用いて行われたのが最初であり、「1回に1個の電子」を用いる形での実験は1974年になってピエール・ジョルジョ・メルリらによってミラノ大学で行われた。その後、技術の進歩を反映した追試が1989年に外村彰らによって行われた。

Fig1_1_2_13

 電子銃から電子を発射して、向こう側の写真乾板(スクリーン)に到達させる。その途中は真空になっている。ただし、電子の通り道にあたる位置についたてとなる板を置く。その板には2本のスリット(細長い穴)がある。

電子は、電子銃から発射されたあと、2本あるスリットを通り 向こう側のスクリーンに到達する。スクリーンには、電子による感光で濃淡の縞模様が像として描かれる。このような濃淡の縞模様は電子に波動性があることを示す。実際、その縞模様は波の干渉縞の模様と同じである。

この実験では、電子を1つずつ発射させても、同じ結果が得られる。つまり、電子を一度に1つずつ発射させることを何度も何度も繰り返してから その合計に当たるものをスクリーンで見ると、やはり同じような干渉縞が生じている。

1999年には、電子や光子のような極微の粒子の替わりに、フラーレンという大きな分子を使って同様の実験を行った場合にも、同様の干渉縞が生じることが確認されている。

 「二重スリット実験」として知られるこの実験は、下図のように行われる。電子顕微鏡の中の電子源から電子を1個ずつ発射する。発射された電子は「電子線バイプリズム」という装置を通る。この装置は、中央には細い糸状の電極が張ってあり、その両側に2枚の平行な金属板を置いたものである。電極の両側を通過した電子は、検出器で11個検出される。驚くことに、電子1個を100%に近い効率で検出する感度を持っている。

Fig1_1_2_14

 この実験結果の最も不思議なことは、着弾の確率分布が干渉縞を描いていることである。1個の粒子の着弾は、一般的に思い描かれるような粒子像と完全に一致しているが、多数の粒子が描く模様は「広がった空間の確率分布を支配する何か」(=波と考えられている)の存在を指し示している。粒子と波の二重性について、多数の粒子の振る舞いが波としての性質を形作っているとする説が過去にはあった。しかし、この実験は、単一の粒子であっても、「広がった空間の確率分布を支配する何か」の存在を示しており、一般的な直観に反する奇妙な現象である。何故なら、一般的に思い描かれるような粒子像では粒子は一点に存在するはずであり、「広がった空間の確率分布を支配する何か」と同じとは考えにくいからである。しかし、この奇妙な実験結果からは、単一の粒子が「広がった空間の確率分布を支配する何か」の性質を併せ持つという一般的な直観に反する事実を認めるしかない。俄には信じ難いが、これこそが量子の本質的な性質であることは、実験が示している動かし難い真実である。なお、粒子として一方のスリットを通ったとする見方と、波として双方のスリットを通ったとする見方は、1つの現象を違う側面から見ただけと考えれば十分に両立可能であり、どちらが真の姿であるかを論じる意味は全くない。

この実験の結果が「電子が1つの粒子として、2本のスリットを同時に通過していること」を示すと主張する者もいるが、両方のスリットを粒子が通過した事実を全く確認しておらず、その見解は証拠不十分といわざるを得ない。事実、パイロット解釈を用いれば、片方のスリットの通過でこの実験結果を説明することが可能である。パイロット解釈は、この実験とは別の理由により下火となった解釈であるが、この実験結果にはパイロット解釈を否定する根拠が含まれていないため、この実験結果を「電子が1つの粒子として、2本のスリットを同時に通過していること」の証拠とすることはできない。