#3 標準光源の特性

CIE)標準光源とは、CIE(国際照明委員会)によって相対分光分布が規定された測色用の光のことを指す。その種類としては以下のものがある。

標準光A 色温度2,856.6Kである黒体の放射

標準光B 色温度4,874Kの直接太陽放射(※廃止)

標準光C 色温度6,774Kの平均昼光(紫外部を除く)

標準光DT 任意の相関色温度 T に対して、相対分光分布が定義された昼光

標準光D65 相関色温度6,504Kの昼光

代表的な標準光源をグラフ化すると下図のようになる。

ICS_光源_分光分布_5_new
 標準光源D65は観測の統計から規格化された分光分布であり、色の計算ではよく使われる。単純な黒体放射の分光分布とは異なり、太陽が大気を通過した光のことなので、大気による波長の吸収が起きたり、大気の散乱による青空の光も含まれている。

補助光源としてD50D55D75等があり、印刷の色評価ではD50が使われている。

これらのDシリーズは「Illuminant series D」や「CIE昼光(D)」と呼ばれる。

色温度4,000Kから25,000Kに対する昼光を求める方法があり、昼光の分光分布S0と固有ベクトルS1,S2にそれぞれ係数M1,M2を掛け合わせてS0と足し合わせることで求められる。

S(λ) = S0(λ) + S1(λ) *M1 + S2(λ) *M2

色温度(color temperatureとは、ある光源が発している光の色を定量的な数値で表現する尺度(単位)である。単位には熱力学的温度の K(ケルビン) を用いる。

色温度は、表現しようとする光の色をある温度(高熱)の黒体から放射される光の色と対応させ、その時の黒体の温度をもって色温度とするものである。

どのような物質も、高熱を加えると、その温度によってさまざまな波長の光を放射するようになる。その色合いは、物質ごと、温度ごとに微妙に異なる。たとえば鉄の釘など金属をガスの炎で加熱すると光を発するようになる(実際には温度を持っていればオレンジ色よりも波長が長い赤外線、遠赤外線などをわずかに発している)。最初はオレンジ色であり、だんだん白く輝くようになる。

理想的な黒体を想定すると、ある温度において黒体が放射する光の波長の分布を導き出すことができる。温度が低い時は暗いオレンジ色であり、温度が高くなるにつれて黄色みを帯びた白になり、さらに高くなると青みがかった白に近くなる。このように、白という色を黒体の温度で表現することができ、この温度を色温度と呼ぶ。

ICS_光源_分光分布_5b_new
(このカラーチャートは概略図であり、特に物体を特定して色温度を計算したものではない。理論式については プランクの法則 を参照のこと)

朝日や夕日の色温度はおおむね 2,000 K であり、普通の太陽光線は 5,000 – 6,000 K である。澄み切った高原の空の正午の太陽の光はおおよそ 6,500 K といわれる。これらは、一般に考えられている白よりかなり黄色っぽい。実際に物体を照らす光には天空光(直射日光以外の光)の青色がかなり色みに影響しており、6,500 K よりも高い色温度では「白」く感じられる)。

ICS_光源_分光分布_演色性_1a_rev
 代表的な光源の色温度とその影響は上図に示す通りである。光源の分光分布に対応した写真(画像)を見るとそ差が顕著見みられる・やはり自然光(太陽光)は最も良い色再現が得られている。ナトリウム灯はトンネルの照明として使用されているが、色再現性は4種類の中で最も悪い。しかし、これはナトリウムの寿命が非常に長いので経済効果を鑑みて明るさを得ればよいという理由で採用されている。

写真やテレビ、パソコンのモニタ(ディスプレイ)などでは、色温度は色の正確な再現のために重要である。写真では、スタジオ撮影のライト(写真・映画用タングステンランプ)が 3200 K、太陽光線が 5500 K と想定されており、フィルム(長露光用のタングステンタイプと短露光用のデイライトタイプ)はこの色温度の照明下で最適な色再現ができるよう作られている。色彩工学では「標準の光D65」が現在の事実上の標準であり、これは色温度 6,500 K である。アメリカのカラーテレビ(NTSC)では色温度基準は 6,500 K で、日本のテレビ (NTSC-J) の色温度基準は 9,300 K であり、かなり青みがかっている。パソコンのモニタは 9,300 K が主流だが、極端な廉価品を除き、6,500 KsRGBモード)と5,000 K に変更できるため、グラフィックデザインや映像制作などの都合で適切な色温度を選べる。また、鋭く青白い 9,300 K の設定から温和な 6,500 K 5,000 K に変えることで作業者の疲労感(ストレス)が和らぎ、色彩についての正確さが厳しく要求されない場面でもこの機能は有用である。また、ソフトウェアでもパソコンの色温度が調整できる。

一方、光源の演色性と観点からみると、演色性とは、ランプなど発光する道具・装置が、ある物体を照らしたときに、その物体の色の見え方に及ぼす光源の性質のことであり、一般的に自然光を基準としICS_光源_分光分布_演色性_1f_revて、近いものほど「良い」「優れる」、かけ離れたものほど「悪い」「劣る」と判断されるが、演色性に正確性を要求されるような専門的分野においては、数値化された客観的判断基準が設定されていることが多く、演色評価数(Color Rendering Index、略称:CRIがこれにあたる。

演色性を数値として評価する方法を、国際照明委員会 (CIE) が定めている。委員会加盟各国はこれに合致するように各々の国内規格を定めているが、日本でも JIS Z 8726:1990(光源の演色性評価方法)としてJIS(日本工業規格)化されている。

規格では、完全放射体の光またはCIE昼光の光を基準光とし、基準光との比較の上で、測定対象となる光源が、演色評価用の色票を照明したときに生じる色ずれを、100を最良(色ずれなし)とする0100の指数 (Ri; Rendering index) として表したものである。

写真においては、色温度を考慮した撮影が如何に重要かは容易に理解できるであろう。

 

「補遺」標準光源 (天文)

標準光源(standard candleとは、天文学で距離を推定する際に用いられる天体で絶対的な光度が分かっている天体を指す。銀河系外を対象とする天文学や宇宙論の分野では、距離を導出する重要な手法のいくつかが標準光源に基づく方法を採っている。既に分かっている標準光源の絶対光度(またはその対数をとった絶対等級)と、実際に観測される見かけの明るさ(見かけの等級)とを比較することで、その天体までの距離を以下のように計算することができる。

ICS_光源_分光分布_演色性_1g_rev
 ここで D は天体までの距離、kpc 1キロパーセク、m は天体の見かけの等級、M は天体の絶対等級である(m M は静止系で同じ波長域について測光した値を用いる)。

標準光源として用いられる天体には以下のようなものがある。

こと座RR型変光星 - 白色巨星の一種。我々の銀河系内や近傍の球状星団の距離の測定に用いられる。

ケフェイド変光星 - 20Mpcまでの銀河系外の距離測定に用いられることが多い。

Ia型超新星 - 極大時の絶対等級が光度曲線の形の関数として非常に良く決まっている。銀河系外の遠方の距離測定に有用である。

銀河天文学ではX線バースト(中性子星の表面で起こる熱核反応のフラッシュ現象)が標準光源として用いられる。X線バーストの観測ではX線のスペクトルが星の半径方向の膨張を示している場合がある。これはバーストで放射される光子の輻射圧が星の重力を上回って星表面の物質を外へ膨張させていることを示しており、従ってバーストの極大時のX線のフラックスがエディントン光度に達していることになる。このエディントン光度は中性子星の質量(1.5太陽質量という値が仮定されることが多い)が分かれば計算によって求められる。この方法によっていくつかの低質量X線連星の距離を測定することができる。低質量X線連星は可視光では極めて暗いため、距離の測定が非常に難しい。

標準光源を用いる際の第一の問題は、その標準光源の絶対光度がどの程度「標準的」なのか、という問題である。この問題はこれまで繰り返し取り沙汰されてきた。例として、今までの観測から、距離が分かっているIa型超新星は(光度曲線の形状に応じた補正を行なえば)全て同じ絶対光度を持っていることが分かっている。Ia型超新星は伴星からのガスが白色矮星に降着して質量がチャンドラセカール限界を超えるために引き起こされると考えられているため、爆発直前の星は全てチャンドラセカール限界にほぼ等しい質量を持つと考えられており、これが絶対光度がほぼ同じになる理由と考えられている。しかしどのような場合でも同じ絶対光度になるかどうかは必ずしも明らかになっていない。また、遠方のIa型超新星で我々の近傍のIa型超新星と異なる性質を持つものが存在する可能性についても分かっていない。

この問題が単に哲学的な問題にとどまらないことは、ケフェイド変光星を用いた距離測定の歴史に示されている。1950年代、ウォルター・バーデは当時標準光源の較正に用いられていた太陽近傍のケフェイド変光星が、近傍銀河の距離測定に使われていたケフェイド変光星とは別の種類に属することを発見した。太陽近傍のケフェイド変光星は種族Iに属する恒星で、遠方の距離測定に使われていた種族IIのケフェイド変光星よりも金属量がずっと多い恒星だった。その結果、種族IIの恒星は実際にはそれまで考えられていたよりもずっと明るいことが明らかとなり、球状星団や近傍銀河までの距離、天の川銀河の直径などの測定値は全て約2倍大きい値に修正された。