ここで述べる「演色性」は、これまで扱ってきた「光や色の三原色」や「光源の色温度」とは若干異なるもので、色というものを考えるときに見逃してはならない要素である。そこで今回は演色や炎色といった概念について説明する。
a.炎色反応
・概念
演色反応(焔色反応ともいう)とは、下図に示すようにアルカリ金属やアルカリ土類金属、銅などの金属や塩を炎の中に入れると各金属元素特有の色を示す反応のことを指す。これは、金属の定性分析や、花火の着色に利用されている。
・反応の原理
熱エネルギーによって外殻へ励起した電子が基底状態へ戻る際に生じる発光が炎色反応である。
高温の炎中にある種の金属粉末や金属化合物を置くと、試料が熱エネルギーによって解離し原子化される。それぞれの原子は熱エネルギーによって電子が励起し、外側の電子軌道に移動する。励起した電子はエネルギーを光として放出することで基底状態に戻り、この際に元素に特徴的な輝線スペクトルを示す。従って、比較的低温で熱励起され、発光波長が可視領域にある元素が、微粉末や塩化物のような原子化されやすい状態になっているときにのみ、炎色反応が観察される。
b.演色性
演色性とは、ランプなど発光する道具・装置が、ある物体を照らしたときに、その物体の色の見え方に及ぼす光源の性質のことである。
一般的に自然光を基準として、近いものほど「良い」「優れる」、かけ離れたものほど「悪い」「劣る」と判断されるが、演色性に正確性を要求されるような専門的分野においては、数値化された客観的判断基準が設定されていることが多く、演色評価数(Color Rendering Index、略称:CRI)がこれにあたる。
c.演色評価指数
演色評価数(CRI)は、2つの光源(光源と太陽光)の下での人間の裸眼による色知覚の程度を示すものである。
上図左側の1~15の色票はCIEが定めたもので、演色性を評価するのに用いられている。
また、上図右側のグラフは各色票における厳密な分光特性を示す。
[注]色票は筆者が作成したもので、正確な色を表現してない。
・演色性の客観的基準
演色性を数値として評価する方法を、国際照明委員会 (CIE) が定めている。委員会加盟各国はこれに合致するように各々の国内規格を定めているが、日本でも JIS Z 8726:1990(光源の演色性評価方法)としてJIS(日本工業規格)化されている。
規格では、完全放射体の光またはCIE昼光の光を基準光とし、基準光との比較の上で、測定対象となる光源が、演色評価用の色票を照明したときに生じる色ずれを、100を最良(色ずれなし)とする0〜100の指数 (Ri; Rendering index) として表したものである。
演色評価数には平均演色評価数 (Ra; average of Rendering index) と特殊演色評価数 (R9〜R14およびR15の指数) がある。JIS規格がCIE規格と唯一異なる点として、「日本人の肌の色」として解説されるR15色票の追加が挙げられるが、一般によく使われる平均演色評価数はR1〜R8の演色評価数の平均値であるため、CIE規格との乖離は発生しない。
平均演色評価数 (Ra)8色 (R1〜R8) の色票を用いて評価した演色評価数を平均したもの。
平均演色評価数の評価に用いる試験色 (R1〜R8) |
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R1 |
R2 |
R3 |
R4 |
R5 |
R6 |
R7 |
R8 |
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マンセル値 |
7.5R6/4 |
5Y6/4 |
5GY6/8 |
2.5G6/6 |
10BG6/4 |
5PB6/8 |
2.5P6/8 |
10P6/8 |
色(参考) |
・特殊演色評価数Ri
R1〜R8に含まれない7色 (R9〜R14, R15) の試験色の色票を用いた演色評価数。Raと異なり平均で表すものではなく、R9の指数80、R10の指数82、などのように個別に表す。
赤 (R9)、黄 (R10)、緑 (R11)、青 (R12)、「西洋人の肌の色」(R13)、「木の葉の色」(R14)、「日本人の肌の色(R15)」として解説されることがあるが、JIS規格ではこれらの呼称は用いられていない。
特殊演色評価数の評価に用いる試験色 (R9〜R15) |
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R9 |
R10 |
R11 |
R12 |
R13 |
R14 |
R15 |
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マンセル値 |
4.5R4/13 |
5Y8/10 |
4.5G5/8 |
3PB3/11 |
5YR8/4 |
5GY4/4 |
1YR6/4 |
色(参考) |
ものが自然に見える「基準となる光源」を考えその値を100点にし、「基準光で照らしたときの色」と「評価したい資料光源で照らしたときの色」の差(色差)を100点から引いた値を試料光源の演色性の善し悪しを表す値と考える。つまり、基準光と同じ色となるならその光源は100点満点だということになる。この光源の演色性の善し悪しを表す値を上述したように演色評価数(Color Rendering Index)と呼んだ。これを式で表すと、
演色評価数=100-4.6×ΔE
“4.6”という係数は演色性が許容される限界と考えられる電球色の普通形蛍光ランプが50になるように調整する係数である。ΔE=1のとき演色評価数が4.6変化することから、演色評価数の5程度の変化はたいした変化ではない(悪影響を及ぼさない)といえる。
1~15までの色の1つ1つの演色評価数を、ある特定の色i(i=1~15)に対する演色評価数だから特殊演色評価数Riという。
Ri=100-4.6×ΔEi
1から8の特殊演色評価数の平均値を平均演色評価数Raと呼ぶ。
Ra=Σ(i=1~8)Ri×1/8
通常、平均演色評価数Raと、必要に応じていくつかの特殊演色評価数Riを補足して評価する。基準光は「評価したい光源と同じ色温度」の太陽の光を用いる。
この「評価したい光源と同じ色温度」というところが重要で、これはつまり色温度が違う光源は基準となるものが違うので、色温度が違う光源同士の演色評価数を比較することはできない(意味が無い)のである。
実際の蛍光灯では普通形、高演色形、3波長形に分類されている。高演色形では演色A、演色AA、演色AAAといった区分になっていて、それぞれ、
DL (De Luxe)
SDL(Super De Luxe)
EDL(Extra De Luxe)
と表示されている。
いかに基準光源による色彩を忠実に再現しているかを指数で表したもので、原則として100に近いほど演色性が良いと判断される。
ただし、色温度の高低差により基準光が異なるため、色温度差のあるランプ間でRa値のみを比較することは間違いのもとになるので注意を要する。(白色電球はRa=100であるが、だからといって最も良い光源であるとは限らないのである)
また、平均演色評価数Raは、色の好ましさを表しているものではないので単にRa値が低いというだけではそのランプの実用的価値が低いとはいえない。ちなみに主要なランプのRa値は、下表の通りである。因みに、印刷業界では、Ra≧90と定めている。