アンディマンのテクノロジー(援技力)

写真表現に関わる専門的な知識を補うために設けたブログです。 新たらしい時代に相応しい技術情報を掲載していきます。 普段疑問に思った問題の解決に繋げるテーマを醸成していきます。

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光と色の基礎知識 No.9

1.2.7 色温度

 色温度とは、ある光源が発しているを定量的な数値で表現する尺度(単位)である。単位には熱力学的温度K(ケルビン)を用いる。

・概説

色温度は、表現しようとする光の色をある温度(高熱)の黒体から放射される光の色と対応させ、その時の黒体の温度をもって色温度とするものである。

どのような物質も、高熱を加えると、その温度によってさまざまな波長放射するようになる。その色合いは、物質ごと、温度ごとに微妙に異なる。たとえば、の釘など金属をガスの炎で加熱すると光を発するようになる(実際には温度を持っていればオレンジよりも波長が長い赤外線、遠赤外線などをわずかに発している)。最初はオレンジ色であり、だんだん白く輝くようになる。

一般的な感覚とは逆に、寒色系の色ほど色温度が高く、暖色系の色ほど色温度が低い。これは、日常的に目にする赤い炎は、炎としては最も温度が低いものだからである。

・色温度の単位

理想的な黒体を想定すると、ある温度において黒体が放射する光の波長分布を導き出すことができる。温度が低い時は暗いオレンジ色であり、温度が高くなるにつれて黄色みを帯びた白になり、さらに高くなると青みがかった白に近くなる。このように、白という色を黒体の温度で表現することができるのであり、この温度を色温度と呼ぶ。

Fig1_1_2_18
(このカラーチャートは概略図であり、特に物体を特定して色温度を計算したものではない。理論式については プランクの法則 を参照のこと。)

朝日や夕日の色温度はおおむね2000 Kであり、普通の太陽光線は、50006000Kである。澄み切った高原の空の正午の太陽の光はおおよそ6500 Kといわれている。これらは、一般に考えられている白より、かなり黄色っぽい(実際に物体を照らす光は大気の青色がかなり色味を中和しているためで、6500 Kよりも高い色温度のほうが「白」く感じられる)。

・色の再現性

写真やテレビ、パソコンのモニタなどでは、色温度は色の正確な再現のために重要である。写真撮影では、スタジオ撮影のライトが3200 K、太陽光線が5500 Kと想定されており、フィルムはこの色温度の照明下で最適な色再現ができるよう作られている。

色彩工学では「標準の光D65」が現在の事実上の標準であり、これは色温度6500 Kである。アメリカのカラーテレビ(NTSC)では色温度基準は、6500 Kで、日本のテレビ (NTSC-J) の色温度基準は9300 Kであり、かなり青みがかっている(当然ながら色再現上の問題がある)。

パソコンのモニタは9300Kが主流であるが、極端な廉価品を除き、6500 K5000 K に変更できるため、デザインや映像制作などの都合で適切な色温度を選べる。また、鋭く青白い 9300 Kの設定から温和な6500 K5000 Kに変えれば疲労感が和らぐので、色彩についての正確さが厳しく要求されない場面でもこの機能は有用である。PowerStrip のようなソフトウェアでもパソコンの色温度が調整できる。

・色温度と視覚

人間の視覚における色の認識と色温度とは比例関係にない。そのため、人の感じ方により近い表現として、色温度の逆数である逆色温度を使う方法がある。逆色温度はケルビンでの値の逆数の K−1(毎ケルビン)ではなく、それを100万倍したミレッド (M) または毎メガケルビン (MK−1) を使う(呼び名は違うが大きさは同じ単位である)。

屋内照明として広く利用されている蛍光灯は主に「電球色」「温白色」「白色」「昼白色」「昼光色」に分類されており、順に約3000 K3500 K4200 K5000 K6500 Kである。これらは、それぞれ 333 MK−1286 MK−1238 MK−1200 MK−1154 MK−1 となり、全て差が 40–50 MK−1 前後になり色の変化が一定に感じられる。色温度が高いと間隔が広いのに中間の色温度の蛍光灯があまりないのはこのためである。前記のうち「電球色」「昼白色」「昼光色」が一般に販売されている。

・色温度の種類

色温度とは、太陽光や自然光、人工的な照明などの光源が発する光の色を表すための尺度のことである。単位はケルビン(K)である。光源の温度や明るさとは関係ない。

色温度の単位(K)が低いほど暖色系の色を発し、高いほど寒色系の色を発する。

自然光などの朝日や夕日の色温度は、およそ2000K、太陽光は 50006000K程度、人工照明では、ろうそくが約2000K、白熱電球や電球色の蛍光ランプが約2800K、昼白色の蛍光ランプが約5000K、昼光色の蛍光ランプが約6500Kである。

Fig1_1_2_19
・相関色温度

 相関色温度とは、光源色と最も近い色に見える黒体放射の色(温度)で表したものである。色温度、相関色温度は、ともに光源の光色(青っぽい、赤っぽいなど)を表す尺度であるが、厳密には、それぞれの用語の意味するところは異なる。光源の色度が黒体放射軌跡上にある色度と一致した場合に、その色度を有する黒体の温度で光源の色度を表すとき、これを色温度という。しかし、実用的な光源(蛍光ランプなど)の色度は、黒体放射軌跡に隣接して分布するものの、完全には一致しない。そこで、光源と最も近い色に見える黒体放射の色(温度)で表示することが、実用的に行われる。これを相関色温度という。

※色度図上の距離が、知覚的な差と相関がとれるように工夫されたUCS色度図(CIE1960 UCS色度図)上に描かれた黒体放射軌跡に対して、光源の色度点から垂線を下ろし、黒体放射軌跡と交わる点の色温度から、相関色温度を求めることができる。

相関色温度は、光源と最も近い色に見える黒体放射の色(温度)で表示する方法であるため、一般照明用ランプのように、黒体放射軌跡近傍の白色に近い光源色を表すのに便利である。

黒体放射軌跡からの偏りがある場合には、UCS色度図上での距離で示し、併記することがある。

Fig1_1_2_20
 また、2つのランプの光を比較する時、以下に注意すべきである。

     相関色温度が同じランプでも、光の色が違って見えることがある(色度が違うランプの時:相関色温度が同じでも、黒体軌跡との離れ具合が違うと、光の色が違う)

     色度や相関色温度が同じランプでも、演色性が違うことがある(分光分布が違うランプの時)

・色の見え

Fig1_1_2_21色の見え方は、環境条件によって異なる。つまり、光の違いによって、色は見え方が異なってくる。

まず、光と色の関係を考えてみると、光は電磁波の一種で、人間が見ることができる可視光線と言う範囲がある。その光が、ものにあたって反射、あるいは吸収されることのよって色が見えてくる。光がなければ色は見えず、光のもと、すなわち光源が重要なわけである。光がなければ色は見えず、光のもと、すなわち光源が重要なわけである。また、光源(光)には色温度という色成分を持っているので、使用する光の性質によって色の見え方が異なる。例えば、環境光は暗い部屋でPCの画面を見るとよりはっきりした忠実な色で見えるが、蛍光灯の下では青っぽい色(昼光色)に見える。これは6,000K程度の光源で見たためにその色温度が作用したものである。同様に、白色電球の下では少しオレンジがかった色(電球色)に見える。これは3,000K程度の光源で見たためその色温度が作用したものである。

Fig1_1_2_22 例えば、色を見る時、「正確」な色を判断する場合には、何らかの基準の光源が必要になってくるので、国際照明委員会が規定した、タングステン電球に近いA光源、太陽直射光に近いB光源、昼光に近いC光源、さらに自然光に近い合成昼光D光源という「標準の光」を用います。基本となっているのはすべてのエネルギーを連続して持っている太陽の光とされており、測色用の機器などでは、それに近い波長をもっている標準光D65という光源が用いられていることが多いでしょう。また、光源について、太陽光にどれだけ近いかを「演色性Ra」と言う数値で評価しています。野菜など自然の色等は、演色性の高いランプを用いると生き生きとして熟したおいしさを感じさせてくれます。機器を使わず、目で見て測定する場合は、昼光の北窓が良いとされています。光の変化が少なく安定して見えるからです。陽の光を直接受けた場合、反射する光の量が多すぎて光るような状態になり、淡い色等は見えなくなってしまいます。外での色彩の調査をする場合には、晴天より薄曇りで周辺全体に光が柔らかく拡がっている状態のほうが色を見やすいのです。

Fig1_1_2_23
  カラーチャートは、「色」の「表」、つまり色見本を配列した板状の物体であり、画像システムの色彩再現性をチェックするなど色の比較・測定に用いる。デジタルカメラやスキャナーなどのグラフィック機器を較正したり特徴を明らかにするのに使われる。

光に照らされたときの、物体の色の見え方を「演色性」という。

照明用の白色LED製品には、この演色性を数値で表す「平均演色評価数(Ra)」という値が記載されていて、 この値が100に近いほど、本来の自然の色を再現できる性質が高いと言われている。

演色性は、われわれが普段から見慣れている 自然光に近い光を基準として、それからどれくらい違って見えるのか が数値で評価されます。そして、これにより求められた数値を 「演色評価数」 といいます。

物体の様々な色を代表させた、下図のような「色票」という試験色がある。

演色評価数は、実際に色票を、JISで決められている基準光と、対象となる照明(試料光)とで照らした時に、 どれくらい色のずれがあるかを数値で表したものである。

演色評価数は、基準光で照明したときを100として、ずれが大きくなるほど数値は小さくなります。

つまり、数値が大きいほど(100に近いほど)対象物を自然な色合いに見えるように照明できるということになる。

Fig1_1_2_24
  演色評価数の測定は、物体の様々な色合いを代表させたNo.1No.15の色票を使って、個々の演色評価数が求められる。 これらを、特殊演色評価数Rii115)という。

このうち、R1R8の数値を平均した値を「平均演色評価数(Ra)」 といい、通常はこのRaの数値が演色性を代表した値として、製品に記載されている。

※演色評価数は、あくまで色の再現性の高さを表したもので、好ましく見えるかどうかとは関係がなく、演色評価数が低くても、 照明対象物やシーンによって好ましい色に見える場合もある。

JIS(日本工業規格)とは、日本の工業製品に関して、工業標準化法に基づいて定められた日本の国家規格のことをいう。

光と色の基礎知識 No.8

1.2.6 黒体放射

 黒体Black body、あるいは完全放射体)とは、外部から入射する熱放射など(電磁波による)を、あらゆる波長に渡って完全に吸収し、また放出できる物体のことである。完全な意味での黒体(完全黒体)は、現実には存在しないといわれているが、ブラックホールなど近似的にそうみなせる物質、物体は存在している。

黒体からの熱などの放射を黒体放射という(以前は黒体輻射ともいった)。ある温度の黒体から放射される電磁波のスペクトルは一定である。温度 T において、波長 λ の電磁波の黒体放射強度 B(λ)

Fig1_1_2_16_0



で表される。これをプランク分布という。プランク分布を全波長領域で積分することで、黒体放射の全エネルギーが T4 に比例する(E =σT4σシュテファン=ボルツマン定数)というシュテファン=ボルツマンの法則を得る。また、微分して B(λ) が極大となる λ を求めることで、放射強度最大の波長が T  反比例するというヴィーンの変位則を得る。

Fig1_1_2_16
・空洞放射

十分に大きな空洞を考え、空洞を囲む壁は光を含む一切の電磁波を遮断するものとする。この空洞に、その大きさに対し十分に小さな孔を開ける。孔を開けることによる空洞内部の状態の変化は無視できるものとする。外部からその孔を通して入った電磁波(ある特定の波長のものが光)が、空洞内部で反射するなどして再び出てくることは、孔が十分に小さければ無視することができる。つまり、この空洞は、外部から入射する電磁波を(ほぼ)完全に吸収する黒体とみなすことができる。

この空洞からの熱などの放射を空洞放射という。

・黒体放射と量子力学

理想的な黒体放射を現実にもっとも再現するとされる空洞放射が温度のみに依存する、という法則はグスターブ・キルヒホッフにより1859年に発見された。以来、空洞放射のスペクトルを説明する理論が研究され、最終的に1900年にマックス・プランクによりプランク分布が発見されたことで、その理論が完成された。

物理的に黒体放射をプランク分布で説明するためには、黒体が電磁波を放出する(電気双極子が振動する)ときの振動子の量子化を仮定する必要がある プランクの法則)。つまり、振動子が持ちうるエネルギー (E) は振動数 (ν) の整数倍に比例しなければならない。

E = nhν (n = 0, 1, 2, ...)

この比例定数 h = 6.626×10-34 [Js] は後に、プランク定数とよばれ物理学の基本定数となった。これは古典力学と反する仮定であった(古典力学では物理量は連続な値をとり、量子化されない)が、1905年にアルベルト・アインシュタインがこのプランクの量子化の仮定と、光子の概念を用いて光電効果を説明したことにより、この量子化の仮定に基づいた量子力学が築かれることとなった。

・灰色体

工業製品などでの設計では、対象の温度範囲が限られていることから、しばしば放射率が周波数に依存しない理想的な物体として灰色体を用いている。この灰色体は、黒体の放射率を 1 より小さい定数としたものと等価であり、黒体よりも現実的なモデルを与える。

・黒体放射の原理

物体が低い温度の場合でも周りからの光を反射してしまうと、それは「物体から光が放射されている」状態と同じことなので、プランクの法則で説明される物体の温度と発光色の関係は崩れてしまう。また、一般的な物質は高温になったとしても全ての波長の光を出すことはできない。発光色をプリズムなどで分光すると、どこかの振動数に対応する光が欠けていたりする。そんなわけで、プランクの法則で説明される物体は 「全ての光を反射せずに吸収し、かつ、高温では全ての波長の光を欠けること無く出せる」という、理想化した物体ということになる。ただ、反射光の分を差し引いてやれば物体の温度と放射の関係はおおよそプランクの法則に従うので、そこそこ実用的な法則であるといえる。

 

Fig1_1_2_17

光と色の基礎知識 No.7

1.2.5 電磁誘導

 電磁誘導とは、磁束が変動する環境下に存在する導体電位差電圧)が生じる現象である。また、このとき発生した電流を誘導電流という。

一般にはマイケル・ファラデーによって1831に誘導現象が発見されたとされるが、先にジョセフ・ヘンリーに発見されている。また、フランセスコ・ツァンテデシFrancesco Zantedeschi)が1829に行った研究によって既に予想されていたともいわれている。

ファラデーは、閉じた経路に発生する起電力が、その経路によって囲われた任意の面を通過する磁束の変化率に比例することを発見した。すなわちこれは、導体によって囲われた面を通過する磁束が変化した時、すべての閉回路には電流が流れることを意味する。これは、磁束の強さそれ自体が変化した場合であっても、導体が移動した場合であっても適用される。

電磁誘導は、発電機誘導電動機変圧器など、多くの電気機器の動作原理となっている。

・電磁誘導における起電力

ファラデーの電磁誘導の法則は、次のように示される。

Fig1_1_2_15a



ここで、 ε は、起電力 (V)

ΦB は、磁束 (Wb) とする。

同じ領域に N 回巻かれたコイルが置かれた場合、ファラデーの電磁誘導の法則は、次のようになる。

Fig1_1_2_15b


ここで、 N は、電線の巻数とする。

起電力は磁束の方向に向かって左回りに発生するが、物理学の慣習では、いわゆる右ねじ関係が正であるとされるため、(これは物理に限った話ではなく数学でも例えばクロス積などが同様に定められている。) 左ねじ関係であるファラデーの電磁誘導の式には負号がつく。 逆に言えば、慣習に逆らって左ねじ関係を正と定めれば、負号はつかない。よって、ファラデーの電磁誘導の式は起電力の大きさだけでなく、向きも示している。

また、起電力の向きだけ(大きさは含まない)を示した法則として、レンツの法則、つまり、「回路に発生する起電力は、起電力によって回路を流れる電流が起こす磁束が、与えられた磁束変化に逆らうような方向で発生する。」が存在する。

Fig1_1_2_15

光と色の基礎知識 No.6

1.2.4 二重スリット実験

二重スリット実験は、量子の波動性と粒子性の問題を典型的に示す実験である。リチャード・P・ファインマンはこれを「量子力学の精髄」と呼んだ。ヤングの実験で使われた光の代わりに一個の電子を使ったものである。

この実験は、古典的な思考実験であったが、実際の実験は1961年にテュービンゲン大学のクラウス・イェンソンによって複数の電子を用いて行われたのが最初であり、「1回に1個の電子」を用いる形での実験は1974年になってピエール・ジョルジョ・メルリらによってミラノ大学で行われた。その後、技術の進歩を反映した追試が1989年に外村彰らによって行われた。

Fig1_1_2_13

 電子銃から電子を発射して、向こう側の写真乾板(スクリーン)に到達させる。その途中は真空になっている。ただし、電子の通り道にあたる位置についたてとなる板を置く。その板には2本のスリット(細長い穴)がある。

電子は、電子銃から発射されたあと、2本あるスリットを通り 向こう側のスクリーンに到達する。スクリーンには、電子による感光で濃淡の縞模様が像として描かれる。このような濃淡の縞模様は電子に波動性があることを示す。実際、その縞模様は波の干渉縞の模様と同じである。

この実験では、電子を1つずつ発射させても、同じ結果が得られる。つまり、電子を一度に1つずつ発射させることを何度も何度も繰り返してから その合計に当たるものをスクリーンで見ると、やはり同じような干渉縞が生じている。

1999年には、電子や光子のような極微の粒子の替わりに、フラーレンという大きな分子を使って同様の実験を行った場合にも、同様の干渉縞が生じることが確認されている。

 「二重スリット実験」として知られるこの実験は、下図のように行われる。電子顕微鏡の中の電子源から電子を1個ずつ発射する。発射された電子は「電子線バイプリズム」という装置を通る。この装置は、中央には細い糸状の電極が張ってあり、その両側に2枚の平行な金属板を置いたものである。電極の両側を通過した電子は、検出器で11個検出される。驚くことに、電子1個を100%に近い効率で検出する感度を持っている。

Fig1_1_2_14

 この実験結果の最も不思議なことは、着弾の確率分布が干渉縞を描いていることである。1個の粒子の着弾は、一般的に思い描かれるような粒子像と完全に一致しているが、多数の粒子が描く模様は「広がった空間の確率分布を支配する何か」(=波と考えられている)の存在を指し示している。粒子と波の二重性について、多数の粒子の振る舞いが波としての性質を形作っているとする説が過去にはあった。しかし、この実験は、単一の粒子であっても、「広がった空間の確率分布を支配する何か」の存在を示しており、一般的な直観に反する奇妙な現象である。何故なら、一般的に思い描かれるような粒子像では粒子は一点に存在するはずであり、「広がった空間の確率分布を支配する何か」と同じとは考えにくいからである。しかし、この奇妙な実験結果からは、単一の粒子が「広がった空間の確率分布を支配する何か」の性質を併せ持つという一般的な直観に反する事実を認めるしかない。俄には信じ難いが、これこそが量子の本質的な性質であることは、実験が示している動かし難い真実である。なお、粒子として一方のスリットを通ったとする見方と、波として双方のスリットを通ったとする見方は、1つの現象を違う側面から見ただけと考えれば十分に両立可能であり、どちらが真の姿であるかを論じる意味は全くない。

この実験の結果が「電子が1つの粒子として、2本のスリットを同時に通過していること」を示すと主張する者もいるが、両方のスリットを粒子が通過した事実を全く確認しておらず、その見解は証拠不十分といわざるを得ない。事実、パイロット解釈を用いれば、片方のスリットの通過でこの実験結果を説明することが可能である。パイロット解釈は、この実験とは別の理由により下火となった解釈であるが、この実験結果にはパイロット解釈を否定する根拠が含まれていないため、この実験結果を「電子が1つの粒子として、2本のスリットを同時に通過していること」の証拠とすることはできない。

 

光と色の基礎知識 No.5

1.2.3 電子状態

 電子状態または電子構造とは、物質原子分子なども含む)における電子の状態のことである。電子状態間の遷移を電子遷移という。

・概説

電子の状態を表す形式が様々考えられている。

具体的な電子の状態として、電荷密度(電荷分布)、バンド構造(あるいは電子の準位)、磁気構造(あるいは電子のスピンの状態)、フェルミ面状態密度、原子間の結合の状態(電荷分布と関係)などが挙げられる。これら以外にも電子状態を示す様式は、数多く存在する。

「電子状態」と「電子構造」は通常は同義と考えてよいが、場合によってその意味合いが微妙に異なることがある。

-電子状態の遷移 (電子遷移)

-光吸収による遷移(光学遷移)

分子電磁波を吸収すると内部エネルギーが増大する。このエネルギーの増加は光量子のエネルギー ΔE に等しく、次の関係で示される。

ΔE = hν = hc / λ

ここで h プランク定数ν は電磁波の振動数λは電磁波の波長c は光速度である。

分子は電磁波を吸収したことによって電子状態に変化が生じる。具体的には電子エネルギー、振動エネルギー、回転エネルギーに変化を起こす。最もエネルギーの低い電子状態は基底状態と呼ばれ、それより高い電子状態は励起状態と呼ばれている。基底状態、励起状態にはいくつかの振動準位があり、各振動準位にもいくつかの回転準位がある。多くの分子で遠赤外、マイクロ波のようなエネルギーが低い電磁波を吸収したとすると回転状態のみに変化が生じ、中・近赤外程度であれば振動、回転状態に変化が生じる、可視光線および紫外線の場合には電子、振動、回転状態に変化が生じることになる。

-電子状態遷移の選択律

分子の電子状態が光学遷移を起こすためには以下のような選択律が存在する。選択律に従って起こる遷移は、許容遷移とよばれ、ルールに従っていない遷移は、禁制遷移とよばれている。しかし、禁制遷移であっても分子内、分子間の摂動により遷移がおこることがある。

・パリティー(偶奇性)に関する選択律

1つの光子を吸収する遷移においてはパリティーの変化を伴う( g - u は許容、g - g および u - u は禁制)。

-多重度に関する選択律

多重度は変化しない(S の変化は0

状態の対称性に由来する選択律

・電子遷移の種類

π*軌道への遷移 — π*軌道の励起状態が存在する分子は、近赤外、可視光から近紫外光領域にかけて遷移を持つことから、古くから紫外・可視・近赤外分光法 (UV-Vis-NIR) により観測がなされてきた。

π-π*遷移 二重結合のπ電子に由来する遷移。アルケンなどで見られ、孤立したC=C結合は190ナノメートル付近に吸収を示すが、共役が伸張すれば、より波長の長い(エネルギーの低い)光でも遷移を起こす。

n-π*遷移 カルボニル基などの孤立電子対に由来する遷移。ケトンなどで見られ、300nm付近に吸収を示す。禁制遷移であるため一般に吸光度は小さい。

σ*軌道への遷移 — π*軌道への遷移と同様だが、σ*軌道は一般にエネルギー準位が高いため遷移により高いエネルギーを必要とし、吸収するのは主に紫外光である。

σ-σ*遷移 — C−C結合やC−H結合に見られる。吸収するのは約150nm光である。

n-σ*遷移 エーテル、アミン、チオエーテルなどで見られる、孤立電子対のσ*軌道への遷移。190nm程度の光を吸収して遷移を起こす。

電荷移動遷移(CT遷移)原子間の電子の移動を伴う遷移。主に錯体化学で取り扱われる。

バンド間遷移 固体においてバンド理論により記述される遷移。

Fig1_1_2_11

・粒子性

 量子の粒子性とは、粒子の存在を仮定すると説明が容易ないくつもの実験の存在を根拠にしている。プランクによるエネルギー量子、光電効果、コンプトン散乱など、粒子と考えると解釈が容易な実験が多々ある。しかしながら、このことは、ナイーブ*1な意味での粒子の存在を示すわけではない。

 

 *1ナイーブ (naïve) とは、日本では、「純真」「素直」「素朴」「無邪気」「飾り気がない」などを意味するフランス語形容詞として使われている。ただし、女性形であり、男性形はナイフ (naïf)という。ラテン語で同様の意味を持つ(ただし他にもっと広い意味も持つ)nativus が語源で、同じ語源の言葉には英語のネイティヴ (native) がある。ドイツ語スウェーデン語ではnaivと書き、オランダ語ではnaïefと書き、いずれも「幼稚」「無経験」などを意味する。

例えば、美術の「アール・ナイフ(英語 ナイーブ・アート)」は童心的な絵画であり、素朴派と訳される。

 

ただ、ナイーブな粒子像が量子論を再現しないわけでもない。例えば、エドワード・ネルソンの確率過程量子化はナイーブな意味の粒子描像で、粒子が酔歩することによって波動性を再現する。

光電効果は、物質に光を当てた時、物質内の電子が光子のエネルギーを吸収して起こる現象である。電子が物質外に放出される外部光電効果と、物質内部で電子が移動して電流が流れたり、起電力を生じたりする内部光電効果とがある。

Fig1_1_2_12
 

金属などの固体表面に光を照射すると、光を吸収してその表面から電子が放出される現象を、光電効果あるいはとくに外部光電効果とよび、放出される自由電子を光電子、電子流を光電流という。気体の原子や分子が光吸収により光電子を放出しイオンになる光イオン化も、光電効果の現象である。飛び出す電子は振動数が低いと放出しない。

 

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